発行年の古いTOEIC本は、実はとてもコスパが良い
今回は、タイトルを見ただけで高地トレーニング向けと分かる「TOEICテストBEYOND990超上級問題+プロの極意」をやったのでレビューします。この本は2010年に発売されたものを、ほとんど内容を変えることなく、2015年に「新装版」として(再)新発売したものです。
そう聞くと、ちょっと印象が悪いかもしれません。古い本を改訂することなく、ただリサイクルしているだけ、と感じるかもしれません。ただ私は、この点については問題にならないし、ネガティブな要素はほとんど無いだろうと考えています。
なぜかというと、TOEICの試験内容の細かい部分は変わっても、全体としての傾向はほとんど変わっていないからです。加えて、TOEICの900点後半を目指す場合は、単純に総合的な英語力を上げるしかありません。そのための勉強法に多少コツはあったとしても、特別な秘密は無いと思っています。
ですので、高地トレーニングをするための書籍は特に、古い本でも十分に役立つはずだと感じています。実際に私は、発行年が古いTOEICの書籍を結構やったことがあるのですが、古いからダメ、と感じたことはほとんどありません。むしろ、古い本は評判が出尽くしているので、良い本を見つけやすいというメリットがあります。また、ベストセラーになっている場合は、中古が安く手に入るケースも多いです。
具体例として、最近私はTOEICの教材として有名な「特急シリーズ」を結構やっています。
TOEICは2016年に新形式になったのですが、そのタイミングで「特急シリーズ」の古い書籍の多くが、「新形式対応版」として(再)新発売されています。それらの改訂版は、新たに問題が追加されている本もありますが、基本的には旧形式時代の問題が主体になっています。
ですが、上にも書いたように、発行年の古さや旧形式時代の問題に、マイナスな印象を持つことはありませんでした。改訂版「特急シリーズ」の本は、旧形式の問題が中心であっても、十分現在のTOEIC対策として使えると感じました。
ということで、今回の「BEYOND 990 超上級問題+プロの極意」は、著者が超有名な先生方ですし、恐らく良い本だろうと思って購入しました。そして実際にやってみて、想像通りに良い本だと感じました。先に短く感想をまとめると、
高地トレーニング用の書籍として工夫がこらされていて、問題のクオリティも高い。もちろん難易度はかなり高いが、理不尽に感じるものはほとんど無い。900点後半~満点を目指す人にはかなりおススメできる。2010年当時「990点満点を目指す」本はこれしかなかったはずだが、最初からこれを作ったのは凄いと思う。
という感じです。
この本にはオマケが付いていて、先生方の座談会音声をウェブからダウンロード出来るようになっています。その座談会には、まだ990点を取得していない頃の濱崎潤之輔先生も参加されています。濱崎先生と言えば以下の本が有名で、実際に私もやってみて、とても良い本だと感じました。
座談会は42分もあるのですが、TOEICを極めた先生方の、かなりマニアックな話を聞くことができます。この雰囲気は濱崎先生の本にも続いているような気がして、「990点を目指す」というコンセプトの歴史を見たような気がしました。
座談会の中にある「990点に特別な意味は無くても、それが学習のモチベーションになるならば、それでいいんじゃないか」という言葉が印象的でした。私も、TOEICの最大の利点は「勉強を毎日続けるためのモチベーションを与えてくれること」かもしれないと思っています。
この本で取り組む高地トレーニングは、どんな感じなのか
この本ではTOEICの各パートごとに「練習問題」→「トレーニング」→「実践問題」という3段階を経て学習をする形になっています。加えて、最後にTOEICのミニ模試が付いています。箇条書きにすると以下のような感じです。
part1 「練習問題」→「トレーニング」→「実践問題」
↓(同様にpart2・3・4・5・6)
part7 「練習問題」→「トレーニング」→「実践問題」
最後に、ミニ模試(51問)
「練習問題」は本番と同じ形式の問題ですが、難易度は結構高めです。本試験でギリギリ出るかもしれない、ぐらいの難しさだと感じました。
その次の「トレーニング」問題は、TOEIC本番よりもかなり難しく作られています。ここは、この本の特徴が最も出ている部分だと思います。学習者に高地トレーニングを課すために、問題の形式にも変更が加えられています。その変更はpartごとに特徴があり、以下のようになっています。
part1
「6つの選択肢を聞いて、適切な物をすべて選ぶ」※通常は4つから1つを選ぶ
part2
「4つの応答を聞いて、適切な物をすべて選ぶ」※通常は3つから1つを選ぶ
part3・4
「解答時間が短縮され、一つの設問につき4秒」※通常は8秒
「音声が長い上に、設問が4つ」※通常は3つ
part5
「間違っている部分を選んで、正しい形に書き直す」※通常は選択肢から正解を選ぶのみ
part6
「穴埋めする空所が6か所」※通常は3か所
part7
「制限時間を90秒に短縮」※通常は180秒相当の物
と言う感じで、問題の形式がそれぞれ変更されています。
ということで、問題全体の難易度がかなり上がっています。通常、ここまで変更を加えてしまうと、TOEICの雰囲気を損なってしまいそうです。しかし、すべての問題がしっかりとTOEICっぽくなっているのが凄いです。
この「トレーニング」の難易度が高すぎてストレスが溜まる、という可能性はあると思います。ただ、どれも良い問題です。ミスをしてしまっても、その後繰り返し解く事で実力を上げる事が出来ると思います。
最後に「実践問題」を解いて、そのパートの学習を締めくくる事になります。「実践問題」も難易度は高いのですが「トレーニング」とは違って、通常形式の問題を解く事になります。ですので「実践問題」は少し安心して取り組めるはずです。
全体としては、助走として「練習問題」があり、山場の「トレーニング」でストレスを感じつつ学習をして、最後に「実践問題」でクールダウンしつつ現実に戻る、というイメージでしょうか。「トレーニング」が極端に難しいので、それを「練習問題」と「実践問題」で和らげているような印象を持ちました。面白いバランス設定だと思います。
リスニングパートでは、細かい部分の聞き取りが要求される
最後に、リスニングパートと、リーディングパートそれぞれの特徴を少し述べたいと思います。
まずはリスニングに関してですが、基本的に難易度はかなり高いです。細かい部分をしっかりと聞いて、その情報を頭の中で整理する必要があります。ストレスは溜まりますが、理不尽さを感じるような問題はほぼありませんでした。極端に音源が聞き取り辛いようなものもありません。すべての問題が、しっかりとTOEICの傾向に沿っていると思います。
加えて、問題がかなり作り込まれている印象を受けました。
例えばpart1の写真描写問題では、写真内の状況を説明するために、単語のマイナーな意味が使われる事があります。辞書でその単語を調べたときに、3番目以降で出てくるような意味です。それを知らないと、正解が選べないような問題が出る事があるのですが、この本ではそういう表現も扱っています。
そのようなTOEIC独特の表現に関して、本文中に「ネイティブに聞いたところ、絶対に使わないと言われた」と説明があって少し笑ってしまいました。つまり、試験のために作られたような表現も、この本ではあえて問題に含んでいる、という事です。
私もTOEICの問題をやっていて「わざわざそんな言い方をしなくても良いだろう(もっと簡単で良い表現があるはず)」と思う時があります。ですが、990点を取るためには、試験にしか出てこないような表現も知っておく必要があるわけです。そのような工夫が随所に見られるので、かなりこだわって問題が作られていると感じました。
リーディングパートでは、細部に目を配る意識が身に付く
先ほど述べた「特急シリーズ」の中に「読解特急シリーズ」があって、それらは3人による共著になっています。その著者の一人は、この本の著者でもあるTEX加藤先生です。ですのでこの本と「読解特急シリーズ」には共通点があると感じます。リーディング問題をミスなく解くための要点が、一貫して述べられていると思いました。
具体的には、TOEICのリーディングには特徴があるので、その形式に慣れる事でミスを減らすことが出来るという点です。part5は単純に文法力を高める必要がありますが、part6・7に関しては、文中にヒントがあるので、それを見逃さない事が大切になります。
「答えを選ぶためには、必ずその根拠が必要になる」という事が、この本や「読解特急シリーズ」で繰り返し述べられています。単語や語法の力をしっかりと付けた上で、根拠を持って正解を選ぶ、という練習を繰り返すことが大切だと身に沁みて分かります。
問題の難易度が高くなると、その根拠を見つける事も難しくなるわけですが、990点を取るためにはその能力を上げて行く必要があります。
TOEICマスターによる、TOEICマニア向けの本
これは本当に良い本なのですが、普通の模試・問題集とは作りがだいぶ違います。この本の著者の方々はTOEICマスターとも呼べる存在だと思います。その方々が、TOEICマニアである学習者を満足させるために、全力を注いで工夫を凝らした本になっています。
ですので、めちゃくちゃ難しいわけですが、TOEICを勉強している上級者の方にとっては、かなり納得が行くし、ある意味楽しめる内容になっているはずです。逆に言うと、ちょっとマニアック過ぎて大衆受けはしない本だと思います。マニアとしては、問題の作成者側の視点を意識するような記載もあるので面白いです。
あくまでも900点後半から満点を目指す場合に、最大の効果を発揮する本だと思います。その対象者はそれほど多くないと思うのですが、しっかりと作り込んで出版をして頂いて、有難いことだと思います。
実は、私が思っている以上にTOEICマニアの人口は多くて、需要があるのかもしれません。濱崎先生の「TOEIC L&Rテスト990点攻略」のように、今後もマニア向けの本が定期的に出てくれると嬉しいです。