「公式TOEIC Listening & Reading 800+」には明確な欠点があるのでオススメ出来ない

公式が作ったという理由で、良い問題集になるとは限らない

今回レビューをする「公式TOEIC Listening & Reading 800+」は、TOEICの公式が作成した「難問問題集?」です。この「?(ハテナ)」マークを付けたのは、この問題集が何を目指しているのか、どのレベルの学習者を対象にしているのか、イマイチはっきりとしていないからです。

タイトルに「800+」と書いてあるならば「難問問題集なのだろう」と思う人が多いはずです。私も前情報が無い段階では、単純に「高難易度の公式問題集が発売されたのか」と思っていました。相変わらず値段は高いけれど、魅力的なコンセプトだと勝手に想像していました。

ですが、実際にやってみたところ、その最初の印象とかなり違う内容でした。本の目的がはっきりとしていない上に構成も独特なので、内容を簡潔に説明をするのが難しいです。おおまかには、

「それぞれのパートにおける難問の解き方を長々と説明したあと、実際に過去に出た難問を解いて800点越えを目指す。なぜか最後に通常レベルの模試一回分付き

と言う感じです。このあいまいな感じが伝わるでしょうか。難問がたっぷりなわけでは無いのです。ちょっとだけです。しかも、解説も間延びしていたり、欲しいところには足りなかったりと、作りの粗さが目立ちます。

アマゾンのレビューでは高評価なのですが、値段も含めて考えると、良く言っても平均的なレベルの問題集だと私は感じました。失礼ながら、たくさんの人が「公式」の名で買ってしまっていると思います。先に結論を短く述べると、

この奇抜な構成は本当に必要だったのか。「800+」と名付けているが、難問問題集とは言い切れない不思議な内容で学習者を惑わせる。問題の質が良いのは公式だから当たり前だが、解説は無駄に長かったり一部省かれていたりと、ストレスが溜まる内容。定価で買うのは、どのレベルの学習者にもあまりおススメ出来ない。

と言う感じになりました。私はいままで、たくさんの問題集や模試をやっています。最近出ている本は、値段に対してクオリティの高い物が非常に多いです。

一方で今回の本は、公式問題集以上にコスパの悪さを感じました。確かに「公式が作った問題集」という部分は、他の出版社がマネの出来ない強みです。ですが「公式だから良い問題集を作れる」わけではないようです。

逆に言うと、有名な講師の先生方が出している問題集が、いかに良く作られているかという事がよく分かります。良い問題集を作るためには、構成や解説の仕方に、熟練の技が必要になるのだと思いました。

これは公式問題集にも言える事ですが、「公式」という名前だけで本が売れるせいか、他の会社から出ている本の研究があまりされていないように感じます。結果、値段も相変わらず強気ですし、内容もやや独りよがりなものになっているのだと思います。

あと、別冊付録で単語集が付いているのですが、内容が中途半端で本当にオマケという感じです。公式はご存じないのかもしれませんが、この世界には金フレという素晴らしい単語集が存在していますよ。

難問以外は解説を省いている、という致命的なパートがある

この本は3つのセクションで構成されています。

section1 パートごとに難問の傾向と解き方を解説

※24問中11問が難問で、答えが隠されていない。そして難問にしか解説が無い。しかも無駄に長い。

section2 過去のテストから難問100題を厳選(全238問)。

※238問中100問が難問で、難問にしか解説が無い。つまり138問に解説が無い!

section3 本番と同形式のテスト一回分200問 そのうち難問を丁寧に解説

200問中27問が難問認定されている。なぜ急に易しくなるのか謎。

それぞれのセクションについて詳しく解説しますが、全体的に良い点より悪い点が目立ちます。

section1では、難問のみを細かく解説している(無駄に長い)

section1では、難問の解き方について解説がされています。例題のページに答えが掲載されてしまっているので、学習者がそれぞれの例題を解く事はできません。なので、ここは読むだけのパートです。解説の為の例題だとしても、まずは答えを見ずに解いてみたい、と思う学習者は多いはずです。そこら辺のニーズに全く気付いていない感じがしました。

一つの例題に対して長々と解説があるのですが、特に目新しいことは書いてありません。また、あまり一つの問題について細かく解説されても、参考になることは少ないです。なぜなら、この本に取り組む学習者のレベルや、それまでの学習の道のりは様々だからです。誰がどの部分を難しいと感じるのかは、異なっている事も多いと私は思います(思考パターンも違うので)。

それに、難問の解き方については、他の問題集でよりよい物が既にたくさん存在しています。著名な先生方が良い本をたくさん出版されています。例えば以下の本は本当に参考になりました(かなり上級者向けですが)。

他に、TOEICの問題集で有名な特急シリーズで、パートごとに分かれている難問問題集もあります。

特急シリーズは本のサイズが小さいせいもあって、解説が簡潔で的を得ている物が多いです。それらに比べると、このsection1の難問対策は、文章が長すぎて読みにくい印象を受けました。

section2には238問が含まれているが、難問100問にしか解説が無い

このパートでは、過去のテストで出た問題の中から、難問を集めて出題がされています。全部で238問あるのですが、パートごとの問題数がかなり偏っています。具体的には以下のようになっています。

問題数うち難問私のミス数
part122
part214141
part330101
part436121
part532323
part640106
part784201
合計23810017

part6の問題数がなぜか多いのですが、それはたいした問題ではありません。問題なのは、難問にしか解説が無いことです。つまり、238-100=138問に解説がついていません。この138問は誰もミスしない、と製作者は思ったのでしょうか。問題集を出すならば、すべての問題に対して、最低限の解説は付けるべきだと思います。

実際、私はpart6でかなりミスをしてしまったのですが、それらは難問に該当していないものもありました。答え合わせをする時に解説が無い……。こんな問題集は初めてです、と言いたいところですが、一つ思い当たるものがありました。韓国製の模試です。

韓国で販売されている模試で、非常にコスパが良いです。TOEIC公式の過去問が10回分収録されていて、リーディング・リスニングそれぞれが3000円ぐらいで購入できます(韓国国内なら2000円もしないで買える)。ただ、韓国語が読めないので、解説があるけれども理解出来ない、というジレンマがあります(グーグル翻訳を使えば多少はなんとかなる)。それを今回思い出しました。

実は、今回の「800+」は他にも韓国模試と関係する部分があります。このセクション2に含まれている問題は、上記の韓国模試から問題が使われているようです。私もリスニングセクションを解いていて、なんとなく見たことのあるような図があるなー、と思って調べたら、そういうわけでした。

問題を再利用するのは全く問題は無いと思います。ただ、韓国模試には解説がすべてついてるのですから、それを翻訳して掲載する事は簡単に出来たはずです。それをやらなかった、というのは手抜きと言われても仕方がないのではないでしょうか。実際は、なんらかの意図があって解説を省いているのかもしれませんが、私はただの不親切に感じました。

section2全体の問題のチョイスは良いと思いますし、私もミスが多かったので勉強になると感じました。解説をしっかりと付けてくれていたら、このセクション2だけで、本を買った甲斐があったと感じたと思います。本のサイズは大きくて余白もあまっているのに、なぜこうなったんだろう……。セクション1を無しにして、その分、解説に力を入れれば良かったのに。

section3はやや易しめの普通の模試が収録されている(なんで?)

難問対策をした後は普通の模試で力試しだ! という事なのでしょうか。そういうのは公式模試か、他の模試でやるから大丈夫です、と私は思いました。今回「公式TOEIC Listening & Reading 800+」という名前で本を出しているのですから、少なくとも本番より難しい模試を付けて欲しかったです。

section1とsection2では、全問題の半分弱が難問として出題されています。ですが、section3では200問中27問が難問認定でした。本番のテストでも、難問はこのぐらいの割合ですよ、という情報を開示してくれているのかもしれません。ただ、この「難問認定」は、あくまでもTOEIC公式が考える「難問認定」です。人によっては簡単に感じる問題もあると思うので、あまり役立つ情報では無いと思います。

ちなみにsection3の私のミス数は、リーディング・リスニングともに一つづつ、合計2ミスでした(正解率98%)。TOEIC本番や公式問題集と比べても、だいぶ易しめの模試だと感じました。思い起こすと、公式問題集6のpart1のリーディングはかなり難しかったです。あれぐらいのレベルの物を「難問模試」として収録していたら、もう少し印象が違ったと思います。

いろんな面で作りこみが甘いと感じた問題集だった

この「公式TOEIC Listening & Reading 800+」を、僭越ながら私が一から作り直すなら、section2だけに的を絞ると思います。正解率の低かった過去問をたくさん収録して、解説に力を注ぎます。精選模試のように正解率をパーセンテージで示せば、学習者はより客観的な情報を得られるはずです。

そのような難問問題集を公式がpartごとに出版すれば、かなり売れると思います。ただ、商業的なメリットはあまり無いのでしょう。公式問題集を今の価格で売るために「過去問を大量に収録した」本は絶対に出したくないはずです。

韓国で出来ていることが日本で出来ない理由は、単に「その方がもうかるから」なのは明らかです。そのような公式の不親切さと商売のやり方が、この本にも良く表れていると感じました。今回はずいぶん辛辣なレビューになってしまいましたが、フォローするポイントがあまり無い、というのが正直な感想です。